2015年8月5日水曜日

ホンダ・ゴールドウイング GL1800 レポート

 このブログをご覧の方はご承知の通り、最近、筆者はCan-Am Spyder という普通免許で運転できる三輪車にもっぱら興味津々だった。しかし、ふと冷静になって考えてみると、人生の半ばをとうに超え、究極のモーターサイクルに乗らずして死ねるか、という命題に答えを出さなければならない時が来たように思われる。そう、もうそろそろ「終の棲家」ならぬ「終のバイク」を考えなくてはならないのだ。それは、究極の一台ということになる。

 究極のモーターサイクルと言えば、ホンダ・ゴールドウイング GL1800 をおいて他にない。おそらくそれは異論を待たないであろう。もちろん、速さの究極、手軽さの究極、価格の究極などというものもあるだろうから、ひとえに究極と言ってもひとつではない。

 では、ゴールドウイングは何の究極だろうか。私は思う、モーターサイクルでありモーターサイクルでない究極だ、と。このことは、この後、実際に運転してみて、真っ先に感じることになるのだが、乗り始めるまでの精神的なプレッシャーは半端なものではない。あの巨艦を相手に、身長165cmの私が太刀打ちできるのか、そればかりが気になる。たちゴケのことを考えると、恐怖心しか感じない。

 実は過去に一度だけ、横浜市旭区のホンダ・ドリームで、タンデム(2人乗り)で短い試乗させてもらったことがある。このときは、重さをそれほど感じなかったが、終始緊張しっぱなしだったので、ゴールドウイングを楽しめたという記憶がない。そこで、もうすこしゴールドウイングを知るべきと思い、最高気温が37度と予想される暑い8月1日、ゴールドウイングをレンタルするために、京都に向かった。善は急げ、チャンスを逃すと二度と来ないかも知れないので。



 ホンダ二輪車のディーラーであるホンダ・ドリーム京都東にて、この、ライダーの憧れであり、究極のモーターサイクルである、ゴールドウイングGL1800 をレンタルした。この店舗は全国チェーンのレンタルバイクショップを兼ねており、保険込みで4時間2万円強は「授業料」としては高いが、将来の具体的購入候補と考えると、ひと時でも乗って体験しておかなければならないの である。


 レンタルバイクは店内に置かれていた。威風堂々とした外観は、見るものを圧倒する。二輪車に興味のない人から見れば、「なんだあれは?となるかもしれない。今回、4時間ほどをゴールドウイングを過ごすことができたので、インプレッションもかねてレポートする。


 まず、必要事項を用紙に記入し、料金を保険料とともにカード払いとした。その後、試乗開始前に店員から基本的な操作法のレクチャーを、クーラーの効いた店内で受けた。 トップケースとサイドケースの開け方、閉め方は、リアランプ上の3つのレバーを引くことで可能となる。特に問題ないのだが、ゴールドウイングの後方は、ややゴチャゴチャしている印象を受け、レバーの位置を間違いやすく、テールランプの下をいじってしまうことがあった。このマシンの表面積は広いのである。


 この日の京都の最高気温は37度。灼熱の市街地にむけてゴールドウイングで滑り出した。・・・と、こう書くと格好いいのだが、実は相当にビビッていた。少しだけ段差のある歩道から目の前に出ることが、なんとも勇気のいることか。クラッチのタイミングは分かったが、アクセルをどれだけ開けてクラッチをつなげばよいのか、その加減が分からないのだ。店員2人に見送られ、何とか最初の「儀式」はクリアできた。

 そして店の前にある信号を右折する。こういった何気ない動作に怖気づいてしまうのだが、ひとつひとつクリアできると自信につながる。そうだ、自分より小柄な高齢者(失礼)も乗っているではないか。乗りこなすには程遠いにせよ、とにかく「乗れる」自信を持ちたいものだ。京都市山科区、国道1号に右折して大津方面に向かう。その頃にはすでにゴールドウイングの虜になっている自分に気がつく。


 走り出したとたんに気づいたのだが、この極めて上質なエンジンはいったい何?という印象を持つ。二輪車のエンジンとは思えないほど、そのサウンドやアクセルワークへの追従性が「豊か」なのだ。つまり、有り余るエネルギーが豊富にあり、それを初めて操るライダーが程よく調教できるエンジン、と言ったらよいだろうか、要は完成された極上のエンジンなのだ。

 この水平対向6気筒エンジンは、まさにシルキーと呼ぶべきすべるような、一切の抵抗を感じさせない滑らかな回転を示す。そのサウンドも上質。そして、空気ばねかと錯覚するほど乗り心地は快適だ。いずれも下手 な四輪車より美しい世界がそこにある。それにしても、オーディオ(今回はFM放送)を聞きながらバイクを運転するのは初めてだったし、オートクルーズ付き のバイクに乗るのも初めて。これはもはやオートバイではなく「高級な何か」なのだ。

 このあたりはライバルと目されるBMW K1600GTLに乗って比較してみたいものだ。なにせあちらはBMW。元祖シルキー6であり、ぜひとも比較してみたい。


走行中の印象を少し述べることにする。まず、大型のシールドとフェアリングのおかげで、体に風はほとんどあたらない。灼熱の中でも、走れば不思議なことに結構涼しく感じる。エンジンの廃熱も下半身を襲わない。だからクーラーのないクルマ、とも呼べる。しかし、乗る人の心を豊かにしてくれる性能は、こちらのほうが何枚も上手であろう。



 琵琶湖の西、対面通行の高速道路といった国道161号を高島市に向けて北上する。ここはカーブの少ない、ときどき琵琶湖が眼に飛び込むゴキゲンな快走路だ。途中、渋滞に遭遇するが、さて困った。こんな巨体ですりぬけができるのか?という最大?の問題がある。危険なすり抜けはしないに越したことがないし、ましてレンタルバイクだ。万が一のことがあったら、金銭的なことはもとより、精神的にもダメージを追ってしまう。しかし目前の渋滞は解消しそうにない。そこで思い切って、他の二輪車に続いてすり抜けをしてみた。これがなんと、あまり苦もなくできるのである。全幅は94cmと、たとえばZX-14とかに両サイドのパニア・ケースを付けた場合よりも狭いのである。最初から取り外し不可能なサイドケースが装備されているゴールドウイングでは、オプションでパニアを取り付けた場合よりも狭いのだ。

 また、低速の安定度たるや鬼のようだ。歩くようなスピードでも慣れればドンッ!と構えていられる。案外と一本橋は得意なのかもしれない。などと考えているうちに、だいぶ慣れてきた自分に気がつく。


 走行性能に関しては、もはや文句のつけようがない。今回はワインディングでの試乗ができなかったので、そのインプレッションは他に譲るが、いざというときに必要なパワーは必要なだけ引き出せるといった印象が強い。そのため、スーパースポーツとのマス・ツーリングでも、後れをとることなくペースについていくことが出来ると思う。なにせ、乗車姿勢が楽なのがありがたい。今回の4時間のレンタル中、体のどこかが痛くなる経験は皆無であったことを強調したい。

 さて、ゴールドウイングGL1800を語る上で欠かせないのが、高い利便性である。そのなかでも標準装備されたトランクは、タンデムでの1週間に及ぶツーリングに十分な積載性を与えてくれそうだ。フルフェイスヘルメットが2個収納できるトップケースと左右のサイドケース。いずれもダンパーを装備して、クルマのトランクのように優しく開閉する。米国製だったGL1800では、これらのケース内には絨毯が敷かれていたが、ビッグマイナーチェンジを受けて熊本工場製になった現行モデルでは装備されない。この点がやや残念である。

 ETC本体は左サイドケースに収納される。なお、イグニッション・キーとトランクのキーは連動していないようで、キーのリモコン動作でロックされるようだ。とにかく、このトランク、使い勝手は非常に良い。


 今回はハンドルポストやフェアリングに装備されたすべてのスイッチを使うことはできなかったが、オーディオと並んで特筆すべき機能がオートクルーズである。所有する四輪車にも装備されており、一度その便利さを知ってしまうと、手放せなくなる。それが二輪に装備されているとは、いったいどういうものなのだろう。ヤマハFJR1300Aにも装備されており、FJRに乗る知人が「いやー、これが一番便利な装備」と太鼓判を押していたが、実際の使用感はどうなのか、とても気になっていた。

 レンタルに当たっては、 オートクルーズの説明まで受けていない。停車したときにスイッチ類をじっくり観察しなかったので、走行中に眼に入ってくるスイッチの文字が手がかりだ。右手にオートクルーズのスイッチを3つ発見する(下写真)。うち押しボタンはこの機能のON/OFFスイッチらしい。まず、これをONにする。そしてSETとかかれたボタンを押すと、一瞬のタイムラグの後にぐっと体が後方にのけぞる感じと同時に、その速度が維持される。

 慣れれば問題がないが、オートクルーズをセットした瞬間の不快感がある。これはいただけない。ただし、設定速度のアップやダウンは難なくできたし、この機能自体に問題はなく便利だ。セット時の不快感も、そういうものだと知っていれば問題にならないだろう。ただし、最後までキャンセルスイッチを見つけることはできなかった。ブレーキ操作でキャンセルになるのは知っているから、これも特段の問題ではないのだが、気になるところ。操作系はできるだけ単純なほうが良いという二輪車のセオリーに従い、余計なスイッチをつけることでライダーの混乱を避けるという、いわば親心なのであろうか。


 ゴールドウイングにマイナスポイントを見つけるのは難しい。もちろん、重さ - はマイナスだが、それが安定性につながるのであれば、必ずしもマイナスではない。しかし、高級なソファを思わせる安楽なシートには不安要素がある。それは、走行中はシートの後方にどっかりと尻を据えて座っていれば良いのだが、信号待ちなど足を付くときには前方に腰をずらさなければ、地に足が届かないのだ。長身であっても、シート両脇のクッションが邪魔になり、足つき性をスポイルしていると思う。これもゴールドウイングならではの作法と考えられなくもないが、停車をあらかじめ意識していないとあわてることになるだろう。


 まだまだ書きたいことはたくさんあるのだが、第一回はこれぐらいにしておきたいと思う。足りないところは、次回のレンタル時にあわせて報告してみたい。まとめると、ゴールドウイングは「買い」であるということ。それも体力のあるうちに所有しておくべきなのではないか、と個人的に思ったりしたということである。

2016.11.1 動画を追加しておく