2018年3月3日土曜日

直島の現代アート、その観光スタンスに疑問

現代アートの島、香川県の直島へ。岡山県玉野市の宇部港からわずか20分の船旅で到着する。到着した宮浦港(みやのうらこう)でまずは腹ごしらえ。60年代アメリカンテイストのシオヤダイナーで、ビーフステーキ・コンボ1,900円を注文。サイドメニュー4種を選べ、ライス、焼きチーズ蓮根、マッシュポテト、スイートバターコーン。12時半の昼飯時だったが、ほかに客はおらず、ちょっぴり心配になったが、良い意味で期待を裏切ってくれた。これがめちゃくちゃ美味い。しかもあわや食べきれないほどの量。満足の一品だった。




今回の直島いきは、「死ぬまでに見るべき世界の100建築」のひとつ、直島のベネッセアートサイトを見るためだ。建築物を見るのが好きなので、これはぜひ見るべきだと思い、早速行くことにしたのだ。その一つ、地中美術館は安藤忠雄氏の手によるコンクリート打ち付けの地下施設。その芸術性は一部理解不能な部分もあるが、既存の概念を完全に打ち破り、脳を開放すると人間はここまで斬新になれるのか、ということを具現化したものだ。見る価値は十分ある施設であるが、この後、直島は訪れるべき地ではあるものの、二度はいかない可能性が高いと思った。その理由は入場料が2000円強と高額にもかかわらず、美術館中にみるべきスポットが少なく、かつ写真撮影が建物についても禁止とのことだ。オール写真撮影禁止、これはあり得ない。SNSで拡散すれば、もっと多くの観光客が訪れるに違いないが、逆に拡散すると、コスパが悪いことがわかってしまうのを予防しているのかもしれない。そう考えると、もろ手を挙げてほめたたえることはできないのである。ちなみに本日の入場客のおよそ半分が韓国からの団体であった。


地中美術館から歩いて数分のところに、余白の美を追求する韓国人芸術家、李禹煥(リー・ウーファン)の美術館がある。その建築も安藤忠雄氏の手によるものだ。入場料は1000円強。屋内に展示された作品は数点しかない。コスパの悪さはピカイチだ。そして、同じベネッセ・アートサイトの美術館群であるにもかかわらず、美術館巡りの割引が一切ない。各美術館で入場券を買ってくれという。ベネッセ(旧・福武書店)の殿様商売、ここに極まれり、だ。この美術館の入り口に常駐しているオジサンに尋ねると、ベネッセの宿泊客以外は美術館群をめぐるシャトルバスに乗ることもできないという。実はそれは間違いで、一般用のシャトルバスも用意されていたのだが、観光客を相手に交通整理しているオジサンの知識が間違ったままでよいのか疑問だ。それ以前に、地下美術館の受付他、大勢の女性スタッフが、他の美術館への行き方などを案内しないのは、あまりにも不親切である。

結局、直島にはバイクやクルマをフェリーに積載して行くのはお勧めしない。なぜなら、これらベネッセ・アートサイトでぼったくられ、南側に位置するベネッセハウスへは宿泊客以外のクルマは近づけず、本数少ないシャトルバスで移動するか、レンタル電動サイクルで行くしかないのである。観光客にとって、バイクやクルマでの移動が極めて不便な島なのだ。莫大な金をかけて建築した美術館群であり、入場料が高いのはやむを得ないのかもしれないが、そこに多くの観光客に来てもらおうというサービス精神が完全に欠如しているのである。写真撮影禁止はすぐに見直すべきだし、それが解禁されないのであれば、地下美術館は500円、李禹煥美術館は200円程度の入場料に値下げすべきである。


ベネッセアートサイト直島の料金設定。ベネッセの宿泊者であれば、いずれも無料で拝観できるらしい。しかし、考えてみれば、芸術をみに直島まで足を延ばしているのである。これが大都市に位置していれば、ここまで文句は言うまい。しかし、そこは離島なのである。安くない交通費を考えると、さらに追い打ちをかけるような料金設定には疑問を持たざるを得ないのだ。哲学的で難解な現代アートは、ヒト脳のかもしだす無限の可能性を見せつけてくれる一方、歪んだ営利主義にまんまとやられてしまっている。人には無限の可能性があると教えてくれる一方、かくも卑しくなれるのだということも知らしめてくれる。教師と反面教師の二面性を、直島アートは教えてくれているのだ。


ふたたびシオヤダイナー。こちらはケイジャンチキンコンボ1400円。かなりのボリュームで、美味しいし食べ応えあり。直島でよかったのはこの食事だけだ。繰り返しになるが、現代アートの島とされる直島の美術館群を展開する、ベネッセアートサイトの鑑賞料は高すぎる。地中美術館と李ウーファン美術館の二つで3090円。ベネッセハウスに行けばさらに1030円かかる。ANDO MUSEUMや家プロジェクトなど他の施設を含めると、さらに高額になる。一方、徳島県鳴門市にある大塚国際美術館は世界の名画を陶板で模造した美術館だが、世界の名画が一堂に会して見切れないほどの数々、しかもオール写真撮影OKということで、入場料3240円はむしろ安すぎるぐらい。それに比べてベネッセは、全面撮影禁止で展示物も少ない。クルマや自転車を運転できないマイノリティー客への配慮もなく、あたかも「ここは離島だ、不便なのも含めてアートだ」とうそぶいているかのようだ。リピーターにはならないだろう。